日本経済論講義 小峰隆夫 日経BP社

引用①
日本のプライマリーバランスは、現時点で大幅な赤字である。これは、現時点で我々自身が借金を増やしているということになるから、過去の人々に対して文句を言う資格はないのだ。…財政再建のためには消費税の増税が必要であり、社会保障については充実ではなく合理化・効率化が求められているはずなのに、全く逆の政策で与野党が一致してしまったのだ。国民の甘い認識とその甘い民意に媚びる政治が続く限り、財政・社会保障問題の解決は難しい。

引用②
サービス産業の特徴は、サービスの購入者が生産者のところに行かなければならないということだ。製造業であれば、九州で車をつくって、それを全国の購入者に配達することができる。しかし、髪を切ってほしい人(購入者)は、床屋さん(生産者)に行かなければならない。すると、人口の多いほど多様なサービス産業が成立するようになる。…人口規模が10万人を超えると、ほとんどのサービス施設の立地確率が50%を上回る。

引用③
全国では東京への集中が生じているのだが、各ブロック(北海道、東北、九州など)ではブロック中心都市(札幌、仙台、福岡など)への集中が進んでおり、「各府県では府・県域の中心(府・県庁所在地)へ」「各地域では中心都市へ」という具合に、各階層において集中が起きていると考えるべきではないか。したがって私は、「東京一極集中」というより「多層的集中」と呼ぶべきではないかと考えている。

引用④
地方が行う少子化対策は効率が悪い。…他の地域から移ってきた子育て世帯は、その移転元の自治体の出生率を引き下げることになる。いわゆる「ゼロサム・ゲーム」になる可能性が高い。…地域が本腰を入れるべきことは、雇用機会を増やして社会減を減らすことなのである。このようにして考えてくると、国は責任を持って少子化対策を講じ、各地域は自らの創意を生かして雇用機会の充実を図るというのが適切な役割分担ではないかと考えられる。

引用⑤
東京は効率的マッチング機能を発揮して、その結果生まれたカップルを周辺地域に供給している。すると、東京は少子化の原因ではなく、少子化に歯止めをかける役割を果たしているとさえ言えることになる。

引用⑥
大卒の女性が専業主婦になる可能性が高いのは、学歴が高いほど所得の高い男性と結婚する確率が高くなるという面もあるが、自分の能力を生かして、ある程度の所得を得られるパートの職が少ないからだろう。…メンバーシップ型の働き方をジョブ型に変えていき、女性が莫大な機会費用を払わなくても結婚・出産ができるような環境を整えていけば、おのずから出生率は高まり、女性の社会進出も進むはずである。

経済論の部分より、地方創生に関する考察に得るところが多かった。東京一極集中に対する新しい捉え方に感銘を受けた。