働かないアリに意義がある 長谷川英祐 中経の文庫

引用①
大学の社会的役割の一つには、基礎的研究を実行し、技術に応用可能な新しい知識を見つけるというシードバンク(苗床)としての機能があったはずです。例えば十数年前に大騒動を引き起こした狂牛病(=BSE)。この病原体は、もともと神経細胞に存在するプリオンというタンパク質が変異したものだと考えられていますが、プリオン自体はそれまでなんの役に立つかわからないものだったので、ごく少数の基礎研究者がその研究を行っていたにすぎませんでした。ところが、ひとたび狂牛病が現れ、プリオンに関する応用研究が必要になったとき、その基礎研究者たちが見つけておいた知識がおおいに役に立ちました。

引用②
多くの研究者(プロを含む)は、教科書を読むときに「何が書いてあるかを理解すること」ばかりに熱心で、「そこには何が書かれていないか」を読み取ろうとはしません。学者の仕事は「まだ誰も知らない現象やその説明理論を見つけること」なのにです。

引用③
人間が動物と異なる点は無駄に意味を見出だし、それを楽しめるところにあるのではないでしょうか。お話ししてきたように、生物は基本的に無駄をなくし、機能的になるように自然選択を受けていますから、無駄を愛することこそがヒトという生物を人間たらしめているといえるのではないでしょうか。

引用④
人生もそうかもしれませんが、いつも永遠の夏じゃないからこそ、短期的な損得じゃない幸せがあると思うからこそ、面倒臭い人生を生きる価値がある、とは思いませんか?

アリなどの知らなかった生態にへぇ〜と感心するだけではなく、探求心を持ち続けること、疑問を持ち続けること、それらが人生を豊かにするということまで考えさせられた。

地方創生大全 木下斉 東洋経済新報社

引用①
今の地域に必要なのは、限られた一部の人たちに熱烈に支持される、突出したコンテンツを用意するとこです。…これまでの「10万人が1000円使うような観光」を、「1000人が10万円使うような観光」に変えていくことが、小さな地域にとって現実的な、観光産業の高生産性化施策になるわけです。

引用②
従来のように、「予算の力」で進める「内輪受けの商品開発」と、身勝手な取引を要求することばかりが先行する方法では、地方を活性化するどころか、地方の信用をなくしかねません。これからは営業が先を走り、市場と向き合いながら確実に改善を繰り返して販売数を増加させていく、地方の繁栄につながる特産品開発が求められています。

引用③
現場それぞれで自らの取り組みを資料にまとめたり、視察見学を有料化するという工夫をし、自分たちが経験から得た知識にしっかりと価格をつける。情報をもらう側も、取り組みのノウハウとなる資料や施設見学をちゃんと購入する。先行する地域の人たちの努力に敬意を払い、「お礼」の形で対価を払うわけです。

引用④
地域活性化においては、責任をとらない100人の意見を集めるより、行動する1人の覚悟の方が尊いのです。小さなチームが自ら取り組みを始めるときには、いちいち合意形成などというものは気にせず、「衰退を引き起こしている問題の解決に必要なトライ・アンド・エラーを、どんどんやってみよう」という状況に地域を持って行くことが大切です。…取り組みを始めた段階で得られる情報では、「そもそも正確な計画など立てられない」と、最初から諦めることが大切です。取り組みを進めていく中で得られた情報をもとにして、執行する規模や内容をどんどん変更していくべきです。二宮尊徳が残した「積少為大」という言葉…小さなものが積もり積もって大きくなる。大いなるものが小さくなるものを生むのではない。ものごとの順序を取り違えれば、必ずおかしくなる

小さな地域でもできることがあること、発展する可能性が十分にあることを感じ、胸が熱くなった。小さな取り組みを積み重ねて行くことが大切だという発想は、自分にはしっくりくる。

日本経済論講義 小峰隆夫 日経BP社

引用①
日本のプライマリーバランスは、現時点で大幅な赤字である。これは、現時点で我々自身が借金を増やしているということになるから、過去の人々に対して文句を言う資格はないのだ。…財政再建のためには消費税の増税が必要であり、社会保障については充実ではなく合理化・効率化が求められているはずなのに、全く逆の政策で与野党が一致してしまったのだ。国民の甘い認識とその甘い民意に媚びる政治が続く限り、財政・社会保障問題の解決は難しい。

引用②
サービス産業の特徴は、サービスの購入者が生産者のところに行かなければならないということだ。製造業であれば、九州で車をつくって、それを全国の購入者に配達することができる。しかし、髪を切ってほしい人(購入者)は、床屋さん(生産者)に行かなければならない。すると、人口の多いほど多様なサービス産業が成立するようになる。…人口規模が10万人を超えると、ほとんどのサービス施設の立地確率が50%を上回る。

引用③
全国では東京への集中が生じているのだが、各ブロック(北海道、東北、九州など)ではブロック中心都市(札幌、仙台、福岡など)への集中が進んでおり、「各府県では府・県域の中心(府・県庁所在地)へ」「各地域では中心都市へ」という具合に、各階層において集中が起きていると考えるべきではないか。したがって私は、「東京一極集中」というより「多層的集中」と呼ぶべきではないかと考えている。

引用④
地方が行う少子化対策は効率が悪い。…他の地域から移ってきた子育て世帯は、その移転元の自治体の出生率を引き下げることになる。いわゆる「ゼロサム・ゲーム」になる可能性が高い。…地域が本腰を入れるべきことは、雇用機会を増やして社会減を減らすことなのである。このようにして考えてくると、国は責任を持って少子化対策を講じ、各地域は自らの創意を生かして雇用機会の充実を図るというのが適切な役割分担ではないかと考えられる。

引用⑤
東京は効率的マッチング機能を発揮して、その結果生まれたカップルを周辺地域に供給している。すると、東京は少子化の原因ではなく、少子化に歯止めをかける役割を果たしているとさえ言えることになる。

引用⑥
大卒の女性が専業主婦になる可能性が高いのは、学歴が高いほど所得の高い男性と結婚する確率が高くなるという面もあるが、自分の能力を生かして、ある程度の所得を得られるパートの職が少ないからだろう。…メンバーシップ型の働き方をジョブ型に変えていき、女性が莫大な機会費用を払わなくても結婚・出産ができるような環境を整えていけば、おのずから出生率は高まり、女性の社会進出も進むはずである。

経済論の部分より、地方創生に関する考察に得るところが多かった。東京一極集中に対する新しい捉え方に感銘を受けた。

これだけは知っておきたい 双極性障害 監修=加藤忠史 翔泳社

引用①
双極性障害は「性格的なもの」ではありませんし、まして「気のもちよう」や「心がけ」で治るものではありません。治療が必要な「脳の病気」です。

引用②
本人にとって躁状態のときは、「本来の明るい自分にやっと戻れた」という認識ですから、特にトラブルを起こしているとは思っていません。…しかし家族や周囲は、躁状態のときの本人の言動にとても大きなストレスを感じます。…本人がうつ状態のときは、躁状態のような派手なトラブルを起こさないため、家族や周囲はうつ状態を軽くみてしまう傾向があります。しかし、本人にとっては、死にたいと思うほど毎日つらい日々が続きます。

引用③
双極性障害の治療法は確立していますから、病気をコントロールしさえすれば、双極性障害をもっていること自体は社会生活の障害にはなりません。毎日薬を飲む以外は、病気のことなど忘れて普通に生活を送ることができるのです。

引用④
双極性障害は、その「躁状態」や「うつ状態」を抑えただけでは治療終了となりません。再発を予防し、安定した人生を送ることが最重要の目標なのです。

引用⑤
「病気になってしまったものは、仕方がない。これからこの病気とどう付き合っていけばいいのだろう」と、「なぜ?」より「これからどうするか」を優先する考え方ができれば、この病気をコントロールできるようになります。

引用⑥
たった一晩の徹夜でも、躁転(急激に躁状態になるこ)の引き金になることがありますので、徹夜は禁物です。

これまでの症状の原因がすっきりと理解できた。いまの自分の現状を受け止めることが大切。病気になったのは仕方ないことだが、コントロールして普通に生活することができる。家族も職場も理解してくれている。

現代語訳 学問のすすめ 福澤諭吉 訳=斎藤孝 ちくま新書

引用①
国の文明というのは、上の方、政府から起こるべきものではなく、下の方、人民から生まれるものでもない。必ずその中間から興って、庶民に向かうべきところを示し、政府と並び立ってはじめて成功を期待すべきものなのだ。西洋諸国の歴史書を見て考えてみると、商売や工業のやり方で、政府が発明したものなど一つもない。元は中くらいの地位にある学者が工夫したものばかりである。蒸気機関はワットの発明である。鉄道はスチーブンソンの工夫である。はじめて経済の法則を論じ、商売の法を一変させたのはアダム・スミスの功績である。これらの大家たちは、いわゆる「中産階級」の人で、国の大臣ではないし、また下層の労働者でもない。まさに国民の中くらいに位置して、知力で世の中を指揮した人たちである。

引用②
衣食住を得るだけでは蟻と同じ…
独立して生活するのは、人間にとって重要なことであり、「自分の汗で飯を食え」とは、古人の教えではあるけれども、私の考えでは、この教えを達成したからといって、人間たるもののつとめを果たしたとは言えない。この教えはただ、動物に負けていない、というだけのことだ。…われわれの仕事というのは、今日この世の中にいて、われわれの生きた証を残して、これを長く後世の子孫に伝えることにある。

引用③
学問で重要なのは、それを実際に生かすことである。実際に生かせない学問は、学問でないのに等しい。…本を読まなくてはならない。本を書かなくてはならない。人に向かって、自分の考えを説明しなくてはならない。これらの方法を使い尽くして、はじめて学問をやっている人といえるのだ。すなわち、観察し、推理し、読書をして知見を持ち、議論をすることで知見を持ち交換し、本を書き演説することで、その知見を広める手段とするのだ。

福澤諭吉の思いの力強さ、カラッとした人柄を、読んでいて強く感じることができた。彼が語る学問の厳しさは、いまの僕には重たすぎるプレッシャーになる…。

幸せになる勇気 岸見一郎 古賀史健 ダイヤモンド社

引用①
「いまの自分」を積極的に肯定しようとするとき、その人の過去はどのようなトーンで彩られると思いますか?…答えはひとつ。すなわち、自分の過去について「いろいろあったけど、これでよかったのだ」と総括するようになる。…それはあなたが、「いまの自分」に満足していないからでしょう。…理想には程遠い「いまの自分」を正当化するために、自身の過去を灰色に塗りつぶしておられる。…「もしも理想的な学校で、理想的な教師に出会っていたら、自分だってこんなふうじゃなかったのに」と、可能性の中に生きようとしている。

引用②
自分を愛することができなければ、他者を愛することもできない。自分を信じることができなければ、他者を信じることもできない。…自己中心的な人は、「自分のことが好き」だから、自分ばかりを見ているのではありません。実相はまったく逆で、ありのままの自分を受け入れることができず、絶え間なき不安にさらされているからこそ、自分にしか関心が向かないのです。

引用③
あなたは仕事を通じて所属感を獲得しようとしている。仕事で成果を収めることによって、自らの価値を実証しようとしている。…原則論から言えば、仕事によって認められるのは、あなたの「機能」であって、「あなた」ではない。より優れた「機能」の持ち主が現れれば、周囲はそちらになびいていきます。それが市場原理、競争原理というものです。結果、あなたはいつまでも競争の渦から抜け出すことができず、本当の意味での所属感を得ることもないでしょう。…他者に「信頼」を寄せて、交友の関係に踏み出すこと。…われわれは仕事に身を捧げるだけでは幸福を得られないのです。

引用④
自立とは、「自己中心性からの脱却」なのです。…だからこそアドラーは、共同体感覚のことをsocial interest と呼び、社会への関心、他者への関心と呼んだのです。われわれは頑迷なる自己中心性から抜け出し、「世界の中心」であることをやめなければならない。…「わたし」から脱却しなければならない。甘やかされた子ども時代のライフスタイルから、脱却しなければならないのです。…われわれは愛によって「わたし」から解放され、自立を果たし、ほんとうの意味で世界を受け入れるのです。

引用⑤
すべての出会いとすべての対人関係において、ただひたすら「最良の別れ」に向けた不断の努力を傾ける。…そう思えるような関係をこれから築いていくしかないでしょう。「いま、ここを真剣に生きる」とは、そういう意味です。

小説のようなストーリー性とドラマティックさがあって読みごたえがあった。答えは与えられるものではなく自らの手で導き出すものだという言葉に、厳しさと自らの考えの甘えを痛感しつつ、一歩を踏み出し続ける覚悟を与えてくれた気がする。

アサーション入門 自分も相手も大切にする自己表現法 平木典子 講談社現代新書

引用①
自分の気持ちを明確にして伝えることを「私メッセージ」と言います。…たとえば、「大声を出さないで」「早くしなさい」「だらしない」などの表現の主語は誰になっているでしょうか。…大声に聞こえているのは私ですし、早くしてほしいのも私、だらしないと思っているのも私です。ということは、「わたしには声が大きく聞こえるので、小さくしてほしい」であり、「私が急いでいるので、急いでほしい」「私にはだらしなく思える」です。

引用②
「なぜ〜?」「どうして〜?」という表現には、理由など聞くつもりはなく問答無用で責める意図が含まれやすいのです。そのため誤解される可能性が高い言葉ですから、理由やいきさつを聞きたいとき、「なぜ〜?」「どうして〜?」は使わないでどのような言い回しができるか、考えてみましょう。

タスクとメンテナンスのバランスをとる、という考えには納得。いまの自分にはメンテナンスが必要だ。