現代語訳 学問のすすめ 福澤諭吉 訳=斎藤孝 ちくま新書

引用①
国の文明というのは、上の方、政府から起こるべきものではなく、下の方、人民から生まれるものでもない。必ずその中間から興って、庶民に向かうべきところを示し、政府と並び立ってはじめて成功を期待すべきものなのだ。西洋諸国の歴史書を見て考えてみると、商売や工業のやり方で、政府が発明したものなど一つもない。元は中くらいの地位にある学者が工夫したものばかりである。蒸気機関はワットの発明である。鉄道はスチーブンソンの工夫である。はじめて経済の法則を論じ、商売の法を一変させたのはアダム・スミスの功績である。これらの大家たちは、いわゆる「中産階級」の人で、国の大臣ではないし、また下層の労働者でもない。まさに国民の中くらいに位置して、知力で世の中を指揮した人たちである。

引用②
衣食住を得るだけでは蟻と同じ…
独立して生活するのは、人間にとって重要なことであり、「自分の汗で飯を食え」とは、古人の教えではあるけれども、私の考えでは、この教えを達成したからといって、人間たるもののつとめを果たしたとは言えない。この教えはただ、動物に負けていない、というだけのことだ。…われわれの仕事というのは、今日この世の中にいて、われわれの生きた証を残して、これを長く後世の子孫に伝えることにある。

引用③
学問で重要なのは、それを実際に生かすことである。実際に生かせない学問は、学問でないのに等しい。…本を読まなくてはならない。本を書かなくてはならない。人に向かって、自分の考えを説明しなくてはならない。これらの方法を使い尽くして、はじめて学問をやっている人といえるのだ。すなわち、観察し、推理し、読書をして知見を持ち、議論をすることで知見を持ち交換し、本を書き演説することで、その知見を広める手段とするのだ。

福澤諭吉の思いの力強さ、カラッとした人柄を、読んでいて強く感じることができた。彼が語る学問の厳しさは、いまの僕には重たすぎるプレッシャーになる…。